─ 社長は2代目ですか?
平:そうですね。事業とすると、トヨタさんをリタイアした後に、祖父も同じ事をやっていた時代がありますので、祖父、父、私で3代目と言えるかもしれません。
─ 3代目なんですね。おじい様は元々何をされていたのですか?
平:祖父は、元々広島のフォードで試作をやっていました。その後、トヨタさんに移りました。
─ フォードからトヨタに?
平:はい。祖父はトヨタさんでも同じように試作をやっていました。
現在、我々は「工学系分野に特化したマニュアル」の本を作っていますが、リタイア後の祖父は、スライドでマニュアルを作っていたようです。海外の事業体に対して「修理の仕方」を伝えるマニュアルです。
─ おじい様からお父様へ引き継がれたのですか?
平:そうですね。事業は似ていますが、父は新たに「イラストを描く」ということを始めました。
─ 何のイラストですか?
平:分解図や透視図など、修理書用のイラストです。我々の会社としてのスタートは「イラスト屋さん」かもしれません。
─ そこからどのようにして、今に至っているのでしょうか?
平:イラストは、1つ1つ手描きなのですが、例えば「サイズが少し違う」「伸ばしたい」「縮めたい」という要望があると、全部描き直しをしないといけないのです。
当時はまだIllustratorなどが普及していませんでしたので、CADでイラストを描くようになり、トヨタさんの中でイラストのシェアが増えたことで、「イラストだけでなく本も作りましょう。」「CADがあるなら機械設計もやりましょう。」と次第に広がっていきましたね。
─ なるほど。トヨタさんとの付き合いは、遡ればおじい様の代からなのですね。
平:そうですね。トヨタさんとの付き合いは、もう60年近いですね。
─ 社長はどういうお子さんだったのでしょうか?
平:小さい頃から、機械いじりが大好きで「機械をバラしては組み立てる」をずっと繰り返していてました。時計をバラし、元通りに組み立てられなくなる…なんてこともありました。
中高生の頃は「選択授業」の幅が広く、何をやってもいい時代があったんです。そこで、近所の方に交渉してオートバイをもらい、学校の授業で「全部分解し、再度組み立てて乗る」ということを先生と相談しながらやったり。
ただ、将来、父の会社に入るとなると、「ずっと機械しかできない、それでは面白くないな」と思い、機械系や物理が得意ではあったのですが、大学では化学を選択しましたね。
─ 大学で化学を選択し、卒業後、入社されたのですか?
平:そうですね。ちょうど、先ほどお話した「手で描いていたイラスト」について、前社長(父)が、廃業するか、機械投資をするか、と選択をするタイミングでした。
CADやDTP、Macintosh初期の頃でしたので、今こういう流れが来てるから、機械化が良いなと。
─ その辺りのことに明るかったわけですね。
平:そうですね。当時私はMacを使っていて、こういうものが徐々にくるだろう、ということは感じていました。会社でやれるなら面白いんじゃないかな、と。
─ その当時は、今ほど大きな企業ではなかったのでしょうか。
平:そうですね。社員は20名もいなかったですね。
─ 会社が現在の体制になられたのは、いつ頃でしょうか?
平:マニュアルの本作りを始めた頃からでしょうか。会社を「株式会社」にする前後だと思います。平成3年〜5年頃ですね。
─ 社長になられたのは何年前なんでしょうか?
平:4年前です。
─ その前はお父様が?
平:はい。私が入社した当時は有限会社でしたが、約30年前に会社を株式会社にしまして。その時に取締役にはなりました。
─ 2代目・3代目になると、周りに重鎮がいっぱいいらして「マネジメントが難しい」とよくお伺いするんですけど、そのあたりはいかがでしたか?
平:全然無いわけではないですが、それで苦労しているということは無いですね。
─ 代替わりした時に、1番気をつけようと思ったことは何でしょうか?
平:我々は、工場があるわけでもなく、人で動かしてる会社なので、これまで以上に「人に対するケア」に気をつけましたね。
─ 御社に何度かお邪魔させていただいていますが、本当に皆さん「職人さん」ですよね。
平:そうですね。現在150名ほどのメンバーがいますが、約70名は2級整備士を持っています。美術系の大学から来る子もいますので、「普通に働いたら負け」と思っている人が多いかもしれません。
─ 「普通に働いたら負け」とはどういうことですか?
平:「効率良くやる」というよりは、「自分の思ったように突き詰めてやりたい」という。本当に職人肌ですよね。そういう考えの人が多いように思います。
─ そういう気質の人を採用しているのですね。
平:そうですね。そういう傾向はありますね。
─ 以前、御社に仕事内容を説明していただいた時に、大体の企業さんはサービス内容を説明してくださるんですが、御社は皆さん「車が大好きなんだよ」というお話でしたよね。
平:そういう人が多いですね。
─ 「なぜこのビジネスができたんですか?」という質問にも、社員さんが「車を実際に触らないと直らないと思ったんで、まず車を買って解体して、修理したんだよね。」と。
平:そうなんですよね。それを仕事化して裏付けるというのは、大変な話ではあるんですけど、それはこちらで引き受けましょうと。社員は好きなようにやったら良いんじゃない。と思っています。
─ 私たちがお手伝いをさせていただいたビジネスは、リコールの部分ですよね。これをビジネス化していくのは、とても大変なことのようにも感じるんです。
担当の方から「これはいけるからやりましょう。」と言われるのか、社長が「これはいるんじゃない。ちょっとやってみようよ。」と仰るのか、どちらなんでしょうか。
平:どちらの場合もありますね。リコールに関しては、トヨタさんからきっかけをもらい、「こういう座組みにしたらできるんじゃないの」と進めましたので、私が主だったかもしれませんが、例えばCGなどに関してはメンバー側から意見がありました。
─ メンバーから上がってくるものは、経営サイドから見て「お金になるか、ならないか」というのは考えましたか?
平:最初はあまり考えないですね。
テストランの期間を長く取り、実際に回してみて、ビジネスとしていけそうなのかの判断をします。
─ スタンスとしては、まあやってみるかと。
平:はい。ただ、全く将来性がないものもありますから。それはちょっとやめましょうか、違うことをやったらどうでしょう。というアドバイスはしますね。
─ 最初にお話を伺った時、実はマニュアルに書いてあることはどうでもよく、「自分だったら、こうした方が楽」という発想でマニュアルを作ることがコツだと教えていただいたのですよね。
それは「マニュアル」と対極にあるようにも感じますが…。
平:我々は、マニュアルは2種類あると思っています。
1つは辞書のように、目の前にある物や事を説明する道具としてのマニュアル。もう1つ、我々の作りたいマニュアルは、そのマニュアルがあることで、お客様の行動を制限・誘導し、「お客様に一律の行動をさせる。」というものです。
─ 「一律の行動」ですか?
平:マニュアル作りで1番注力をしているのは、「設計したエンジニアの思ったように行動させる。」ということですね。
例えば、車椅子を乗せる車は「リフトが出て、車高が下がり、リフトに車椅子を乗せる。」という動きをします。
「リモコンのボタンの上を押すとリフトが上がり、下を押すと下がります。」という操作説明をする場合、リモコンのスイッチは車に付いているのですが、一般的なマニュアルでは、そのスイッチを大きく見せて、「ここを押しなさい」という説明になりますが、我々は、操作者の立つべき場所から見たイラストにしますので、実際はスイッチは遠くにあり、小さく描きます。
操作者が立つべき場所から見たイラストにすることで、リフトの事故に巻き込まれることが無くなるからです。
車のリフトでの事故というのは、ほとんどが、操作者がリフト付近に立ってしまい、リフトから落ちたり、挟まれたりすることが原因ですので、そういう事故を起こさせないようなマニュアル作りを心がけていますね。
このように、「一律の行動」というのは、機能を説明するだけではく、操作する人の動きをコントロールして危険を減らし、操作をしやすくする、ということです。
─ そのような考え方は、御社独自のものでしょうか?
平:マニュアルを大学で研究している知人が2人いますが、「説として無いわけじゃない」とは言ってましたね。
─ 御社としては、説としてあろうがなかろうが、「そうであるべき」だと考えているんですね。
平:はい。「そうであるべき」ですね。
─ マニュアル作成をする会社は他にもあるかと思いますが、御社は他社さんと「ここが違う」というのは、どういうところでしょうか。
平:我々は「機械にとても詳しい」ということでしょうかね。場合によっては営業の方よりずっと詳しいです。
設計の方とお話ができるというのことが1番強みかもしれません。設計の方がこう描いて欲しいということを、我々はよく理解できていると思っています。
一方で、最近は「この製品をアメリカで作りたい」「海外に製品を出したい」という話をよくいただきます。
先日お話があった製品は「電車」でした。電車の修理ではなく、作り方のマニュアルを作成したいと。非常に大きな製品なので、実際にその製造現場に行って、どのように作ってるんですか、と聞きに行ったりもします。
そういうことをやっていますので、工場のコンサルティングの仕事とも言えると思います。
例えば、製造技術さんの言ったことを、現場は守っていないことも多々あります。そういうものを、どのようにフィードバックするのか、何をコントロールするのか…というようなことを考えます。
製造技術さんの方から「設計担当がきちんと設計しないから…」という意見があれば、設計さんに対して「現場が作らないものを設計してもしょうがないですから。」という話をし、我々の方で現場・製造技術・設計の三者をまとめるようなこともさせていただいております。
─ それは御社にとっては望ましいことなんでしょうか?
平:我々としては望ましいと思っています。1番やりたいことは、「きちんとした製品を作り、エンジニアの思った通りにやれること。」「製品が世に出て、お客様の役に立つ。」ということです。
オーダーをされた本作りではないかもしれないけど、コンサルティングは我々のやることの一環だと思っていますので、むしろやるべきだと思ってます。
─ そうですね。マニュアルがあるのが最終形ですから。
平:そうです。そこに行き着くまでに様々な過程がありますからね。
─ 事業を多角的に展開されているのですね。
平:
はい。去年あたりから腰痛対策の事業も手掛けています。
我々は、工場や自動車メーカー・ディーラーで働く人の動きを調べ、腰痛などを無くしていく活動を10数年前にやっていたんですが、たまたま、介護業界の方に呼ばれて、現状をお聞きすると、まあひどいなと思いまして…。改めて取り組んでいます。
─ やるべきことは山ほどありますね。
平:そうですね。車だけをやりたいとは思っていないですけど、車を好きな社員が多いので、車からは離れられないですね。
─ 皆さん、楽しくお仕事をなさってる姿が想像できますね。御社にとって、こういう仕事は天職なのかもしれませんよね。
平:そうですね。車をメインにしながら、時々違う事業にも挑戦していますね。
─ 今、事業の中で1番力を入れているのは何でしょうか?
平: 事業規模としてはまだ少ないですけれども、「アプリケーション開発をしながら営業支援をする」ということに1番力を入れています。
─ 具体的にはどのような事業なんでしょうか?
平:今、アジア地区で使っていただいています。
車に限らず、機械系の営業さんやフィールドのエンジニアさんは、どんどん現場に出て行き、色んな修理をしてるんですね。
ですので、修理をしている人同士でのコミュニケーションを簡単にとれたら、Aさんが今困っていることをBさんが解決できるかもしれない。ヒントを与えられるかもしれないですよね。そのコミュニケーションをタブレットの中で動かしています。
技術支援の情報やマニュアルだけではなく、今困っていることを、今解決していくということです。
Slack(ビジネスチャット)やマニュアルや勤怠管理などを1つにまとめたものをクラウド上で動かし、お客様に使ってもらっています。
さらに、そこに集まったデータをトヨタさんの技術部の方に戻し、次の車の生産に役立ててもらっています。
─ それはどなたが始めたことなんですか?
平:4〜5年間シンガポールに赴任してた子がやりたいと言い出しました。現在、彼は執行役員です。
─ もうプロダクトもできているんですか?
平:できています。もう走り出しています。
子会社で、医療介護系もやっているんです。医療介護とモビリティを上手く繫いで何かしていきましょう、というのが今のテーマです。
何をすべきか悩んでいるところですけど、そこは1番大きくなってほしいなと思っています。
─ マニュアルだけじゃなく、その周辺にある情報も一緒に伝達し、更にそれをメーカーの方に戻す。ということですか。
平:そうですね。
製品のプロダクトやライフタイムというのは、開発、設計、生産、アフターサービス…があり、これをフィードバックしていかないと、綺麗な製品開発の輪になっていかないと思っているんです。
我々が手伝えるのは生産以外のところです。開発・設計とアフターサービスはお手伝いできますので、輪をもっと中小の会社に繋いでいきましょう、と。
ここ10年ほど、このようなことを考えていますね。その中の一環として「アプリ開発などをしながら営業支援をする」ということに取り組んでいます。
─ 主にそれを使う対象の企業というのは、製造業なんですか?
平:はい、製造業ですね。最初に買っていただけるのは、機械などを使うフィールドのエンジニアの方が1番多いですかね。
ありがたいことに、この事業を拡張したいという話もいくつかいただいています。
─ それはいいですね。今後、どのような会社にしていきたいと考えてらっしゃいますか?
平:今、悩んでいるところなんです。1番やりたいことは、工場を持たずにアフターサービスから開発までを行うことですかね。
製造業だけでなく、色んな企業様をお手伝いできるようになると1番良いかなと思っています。
すごく沢山売りたいわけでもないので、ここの会社さんは面白いね、と思える会社さんとずっとやれたら良いなと。
─ ある程度、目が届き、コントロールが効く範囲でやっていきたいということでしょうか?
平:そうですね。
─ その方が楽しいですよね。
平:そうですね。本業とは全然関係ないのですが、うちの会社の名前を付けたオートバイのチームを今年から作ったんですね。
─ オートバイのチームですか?
平:はい、オートバイのレースチームです。これも似たような考え方で、バイクを作る人と乗る人はうちの人間ではないんです。外部から呼んでいるんですね。メカニックやピットクルーは、うちの人間を出したいと。
公募式なんですが、これもうまくいったら面白いなと思っているんです。
私は、バイクもモータースポーツも大好きで、業界の方とお話をしている時に、特にオートバイ業界が駄目だという話になったんです。レーシングチームのマネージメントというのが全然できていないとのことでした。
例えば、お客様が来て、ピットレーンでサイン会をやるんですけど、お客様が全員並んでから、ようやくライダーが出てきたり。次の開始まで時間がないから、まだお客様がいっぱいいるのにライダーが帰ってしまうなど…。
他のスポーツでは考えられないようなことが多々あるそうなんです。
その辺りのマネージメントを我々ができたら良いなと思っています。これを大きく成功させたいというわけではなく、オートバイが元気になれば良いですね。我々は車や機械製品にずっとお世話になっていますので。
─ 本業のノウハウが活かされると思うんですけど、それはどちらかというと趣味に近いのでしょうか?
平:言い訳としては本業と絡めなきゃいけないんですけどね。
先ほどお話しした、うちの社員が手掛けているアプリケーションの開発ですが、お客様が求めているアプリケーションとしての反応速度では、判断のスピード感がいまひとつ遅いんですね。
開発者目線、趣味目線で作りたいように作っているところがあります。
ですので、例えばオートバイレースのような、日々色んな事が目の前でどんどん変わっていくような時に役立つようなものができれば、それが合格だ、ということを社員に示したいと思っています。
─ 開発して、自分で使ってみて。エンドユーザーとして使ったら、どうなのかと。
平:どうにもならんな、こんなもの。となることもありますね。
─ 使えないよ、こんなもの。でも自分たちが作ったと。
平:そうそう。それを感じて欲しいというのはありますね。
─ マニュアル作成という世界は堅くて、逸脱しちゃいけないというイメージがありますが、御社は真逆ですよね。 自分が製品を修理するなら、こうする。製品が無いなら作るか、と。とても自由ですよね。
平:ごく稀ですが、電気製品は先にマニュアルを作るということもありますね。
─ どういうことですか?
平:あるお客様に、製品が完成する前に呼ばれたことがあったんです。
開発者が「仕様を決めるのに、とても苦労してるんです。」と仰って。「それではマニュアルを先に作っちゃいますか!」と。
こちらが仮想でマニュアルを作り、この仕様とやり方で良いのか、お客様の方で揉んでいただき、バージョンアップするところはマニュアルを変更し、製品生産に入る。ということですね。
─ 自動車業界にはすでに沢山のお客様がいらっしゃると思いますが、今後、御社のことをどんな業界・企業に知ってもらいたいですか?
平:趣味の世界でいえば、飛行機やロケットなど、飛ぶものを作っている会社に見つけて欲しいですね。
─ 飛ぶもの、それはなぜでしょうか?
平:以前、飛行機の生産現場を見に行ったことがあるんです。
弊社がマニュアルを作りたいと提案しても、「マニュアルじゃないよ、そんなの。」と言われまして。飛行機業界はどこもそのような感じだそうですので、そこを変えたいなと思っています。
─ それはさっき教えていただいたように、マニュアルを作るというよりも、そのもっと前工程の。
平:そうです。こここからやりませんかと。
建機さんなどは、とても進んでます。今後、機械を使われる方が、日本の中でも海外の方が多くなっていくと思います。
そういう方に向けて今までとは違うアプローチで、もちろん使い方もそうですけど、修繕方法の部分などもうまく伝えていきたいなと思っています。
─ とにかく正しく。
平:はい。正しく使っていただき、事故を無くしていきたいですね。医療関係についても同じで、正しく使えば腰痛を起こすことはないんです。
我々企業人として言えば、介護離職なんてあり得ない、介護離職をさせない社会を作らなきゃいかんと思っているんです。
誰が介護がするのか、介護をする方の地位も上げないといけないし、システムや働きも上げないといけませんので、そういうところにも注力していきたいなと思っています。
─ 良いですね。もっと御社にご活躍いただきたいですね。
平:ええ、そうなるとありがたいです。
マニュアル制作からアプリ開発など、多岐にわたるビジネス展開が楽しみですね。
貴重なお話をありがとうございました。
会社名: | 株式会社平プロモート |
---|---|
HP: | https://www.tairapromote.co.jp/ |
設立年月日: | 1964年10月 |
代表者: | 代表取締役社長 平 知恭 |
事業内容: | マニュアル・技術資料制作・アプリ開発 |