─ 山梨県の自然豊かな環境で、ITの活用に取り組んでいるとのことですが、山梨をお選びになったのはなぜですか?
佐藤:生まれは東京なのですが、25年ほど前に有機農産物の生産者交流会やキャンプなどで八ヶ岳南麓を訪れる機会が何度かあって、その頃からの縁になります。
1995年に独立した当時は埼玉で自宅を事務所にしていたのですが、手狭になったので広くて環境のいいオフィスを探していました。そんなとき、八ヶ岳の生産者交流会に参加する機会がありました。移住して農業をやっている人たちとの交流を通じて、自分自身がそこで生活するイメージができて。あのエリアや暮らしぶりがすごく気に入って、「よし!引っ越しちゃうおう」と、そんなきっかけもあって、拠点を山梨の須玉に移したのが始まりになります。
1995年というのは、ちょうどインターネット専用線が普及して、全国的にも環境が整い始めた時期でもあるんですよ。
独立後の1995年から2000年頃は、海外製ソフトのローカイライズというマニュアルやソフトを日本語化するという仕事が多くて、自宅で仕事ができていたのと、仕事相手が海外で利益も順調に上がっていって「これならいける」と思ったんですよね。
─ 自然に惹かれる背景には、ご家庭や幼少時代の影響などがあるのでしょうか?
佐藤:いえ、全然です。私は元々野球少年で、その次は筑波サーキットとかでロードレースをやるバイク小僧で、そしてパソコンおたくでしたから(笑)
─ 幅広いですね!一度関心を持って始めたものは、極めるタイプなのでしょうか?
佐藤::あきっぽいとも言えますが(笑)。どちらかと言うと、極める方ですね。今の仕事にも繋がるのですが、パソコンやマックも、好きになって極めていって…という感じです。
で、夢中になっていってパソコンをやりすぎると、今度は反動で自然に行くわけです。
─ 今現在、生活の拠点は山梨と東京のどちらに置かれているのでしょうか?
佐藤:自宅兼事務所のログハウスを建てて、1階を自宅、2階を仕事場にしているので、生活は山梨が中心ですがお客さんは東京が多いです。週1度、1泊2日で東京に行くという感じで、普段は山梨で仕事をしています。赤提灯もネオンも何もないので誘惑もなくて。仕事するしかないので結構いいんですよ(笑)
─ 御社の商材に、鳥関連のものや、動物細密画家の薮内正幸先生のイラストがありますが、どのようなきっかけから展開していかれたのでしょうか?
佐藤:自然が好きになったこともありますが、特に自然豊かな環境に引っ越してからは、生き物に関係している人たちと知り合う機会が増えたのも大きいと思います。
移住した北杜市には自然や生き物に関連した施設も多くて、やまねミュージアムや動物画専門の美術館「薮内正幸美術館」などがあります。薮内正幸美術館の館長である藪内竜太さんは、薮内正幸さんのご長男で、自分と同じく東京から移住していて、同世代ということもあり、意気投合していつの間にか…という感じでした。
─ 「一緒にやってみようか」のような感覚で始まっていったのでしょうか。
佐藤:最初のきっかけは、2010年に愛知県で開催された生物多様性条約の締結国会議COP10というイベントです。
当時、会社としても個人としても、「アニマルパスウェイ」という、道路によって分断された森に樹上性動物のための橋を作る活動を支援していました。ヤマネの研究者、環境教育団体、大手ゼネコンさんたちと「アニマルパスウェイ研究会」という団体を立ち上げて2004年から活動してきました。
アニマルパスウェイ研究会としてCOP10にブースを出すことになり、「何かノベルティがあるといいね」という話から薮内正幸美術館に協力を依頼して、樹上性動物のニホンヤマネ、リス、ヒメネズミのイラストによるグッズを制作したのが最初の仕事になります。
その時に作った薮内さんのクリアファイルがものすごく好評だったので、「じゃあ、もっと別の物も作ろうか」みたいな形で少しずつ作っていって、今のようになったという感じです。
─ 先生の絵本は拝見したことがありますが、こんなにもグッズ展開をされているとは知りませんでした。
佐藤:薮内さんの絵本は、大体の方は「絵は見たことがある」とおっしゃるのではないでしょうか。
絵本も、絵も見たことがあっても、薮内正幸という動物画家が描いていたということはまだ多くの方に知られていないので…。たくさんの方たちに知ってもらえる機会になったらいいなという思いで、今、一生懸命やっているところです。
─ 御社はアプリ開発やシステム開発などITのサービスも展開をされておられますが、今後、力を入れていこうと思っているのは、IT、動物…どちらの方面になるのでしょうか?
佐藤:やりたいこと、という部分で言いますと自然や動物の方ですかね。
ただ正直、ビジネスとしてはあんまり入れ込みすぎないようにして、システムの方の事業とうまくバランスでやっていかないとな、とは思っています。というのも、以前、動物関連のアプリ事業に入れ込みすぎて、経営が厳しくなってしまって。
システム開発に軸足を戻して立て直していった、という経験があるので…バランス良くやっていきたいです。
─ 当初やられていたローカライズのビジネスから現在のシステム開発に移行されていったとのことですが、主にどのようなことを開発されているのでしょうか?
佐藤:はい。色々なケースでやっていて受託業務は開示できないものも多いのですが。
お話し出来る事例ですと、野生動物の調査研究用でやまねがどういう場所にいたか、行動調査・観察データから行動傾向をプロットしていき、収集したデータから森とやまねの生息範囲の関連性などを分析するためのシステム開発があります。前職がCADソフトのベンダーでしたので、CADソフトを活用したシステム開発を中心に移行していきました。
─ 研究所からの依頼で開発することも多いのですか?
佐藤:やまねについては研究者の方から声をかけていただいたのがきっかけでお手伝いを始めましたが、自分自身の関心や社会問題の解決に貢献出来ればという思いもあって、ボランティア的な部分と新規のビジネス開拓を含めて活動しています。
先ほどお話したアニマルパスウェイ研究会について言えば、道路で森が分断されることによって、ロードキルが起こったり、リスなどの小動物が道路の反対側に行けなくなって生息範囲が狭まってしまうなど、いろいろな課題があるんですよね。
─ システム開発×動物、環境という取り組みは、今後ももっとやっていきたいと思われている分野なのでしょうか?
佐藤:もちろんそうですね。
いわゆるSDGsというのもありますし、社会貢献になってビジネスにもなれば、それはそれですごいハッピーなんですが。ただ、そんなに簡単ではなくて。
環境保全や野生動物保護の活動もビジネスとして機能させないとサスティナブルではないので、本当はこういう生物の研究をしている研究者の方たちや、従来ビジネスに関係のなかった方たちとも、もう少しビジネス感覚を持っていかないと…という課題もありますし、逆に、ビジネスで繋がっている方たちとは、もっと環境や、生き物、教育…そういうことを考えていかなきゃいけなくて。
そこにもっとビジネスチャンスを見つけて解決していく、というのがこれからの課題だと思うんですよね。
一方で「儲からないことはやらない」というのが企業の論理としてまかり通っているところもあるので、本当はそういったところをうまく繋いでいければいいなと思うのですが。やっぱり自分が「いいな」「価値があるな」と思うことをやろうとすると、中々お金にならない…ということも少なくないので、うちもそのバランスを取っている感じです。何とかうまく全体が回るように、ということを常に考えています。
─ お互いの目指していることをうまく橋渡しして、持続可能な形にしていく…コーディネートする人がまだそんなに多くないというのは課題なのでしょうね。是非、新しく導いていただきたいです。
佐藤:(笑)そうですね。そこはうまくできるといいなと思っています。
─ ところで、ロードキルというのは何のことですか?
佐藤::ロードキルは、動物が道路を横断することで車に轢かれて死んでしまう事故のことですね。
動物の命が失われてしまうことはもちろんですが、飛び出した動物を避けようとして、人間の側に被害が及ぶこともあるので、道路の安全性や環境保全などの多角的な観点から考察することが必要です。
事故を防ぐという意味でも多様な取り組みが行われていますが、弊社ではアニマルパスウェイの利用状況をモニタリングするためのシステムも開発させていただきました。
─ こういうモニタリングのシステムは、ほかの用途にも展開できるのでしょうか?
佐藤:24時間モニタリングカメラで録画した映像を解析するためのシステムですので、クラウド上での映像の共有とモニタリング、時間軸とコメントのマッピング、機械学習による自動化など、映像の解析は多様な分野で必要になるものと考えています。
─ 貴社Webサイトの開発事例で紹介されている「曲げ加工支援システム」というのは、どうようなシステムなのですか?
佐藤:都市ガスや下水などには鋼管が利用されていますが、こうしたパイプラインというのは真っすぐの部分だけではなくて曲げないといけない箇所もあるので、その部分を油圧で曲げるんです。
今までは、職人さんの経験と勘で曲げたあとに角度計で測定をしていたのですが、「何度曲がっているか」を正確に把握するために、それをデジタル化・ワイヤレス化しようということでシステムを開発することになりました。
─ 「勘」という職人の技をデジタルに落とし込んでいく。すごいことですね。
佐藤:そうですね。角度計を両側につけて無線で飛ばして、パソコンで「今、何度か」をリアルタイムにチャートで把握できるようになるので、これでやると、若い人にとってはゲーム感覚ですよね。
「曲げていくとこのようにチャートが出てくるので、赤い線まで行ったら離してね」って簡単な操作講習を行なえば、割と簡単にできるようになるので、今まではある特定の熟練者にしかできないと言われていた業務が、これによって、経験の浅い方でもできるようになる。もう、若い方がものすごくうまくなっちゃって!
─ ソフト部分だけではなくて、計測器のようなハードの部分ものも作られるのですね。
佐藤:角度計とワイヤレスモジュールなどを組み込むための、ケース、治具、電子基板なども自分で制作しています。
必要に迫られて模索しているうちに範囲が広がっていったのですが、世の中には、ソフトもハードもできる人が意外と少ないので、重宝に使ってもらえているようです。
─ 動物関係に、システム、測定器など…幅広い分野で展開されていますが、「○○で困っているので、力になってもらいたい」のような形でお仕事の依頼が来るのでしょうか?
佐藤:ええ。割とそんな感じです(笑) もちろん、専門用語とか全然分からない業務もありますが、相談してもらえれば、一通りクラウドからアプリも、全部ワンストップでできるというところを便利に感じていただいていると思います。
この測定器のシステムは、「何度角度を曲げるか」なので分かりやすいですが、例えば、いろいろな箇所から取ってきたセンサーの値を計算して、可視化したいという依頼があった際には、企業の業務は縦割りのことも多いので、自分の担当業務は詳しいけども、別の業務に関しては分からない、ということが結構あるんです。全体を把握してる人が意外と少ないんですね。
なので、ヒアリングと業務の把握がとても重要になるのですが、これが結構大変なんですよ。
─ 勉強からヒアリングから、壮大なスケールですね。パーツを作る工場とも連携がないとできないことですよね。
佐藤:はい。昔だったら大変でしたが、今は3D CADで設計し、3次元データから加工することができるんです。
例えば、従来は町工場で職人が長年の経験と勘でやっていたような、切削加工といったドリルで金属を削る作業も、CADを使って3次元データを元に加工することができるようになってきています。
3D CADのデータをクラウドサービスにネット経由で送ると、すぐに解析されて費用や納期、加工上の問題点などもあっという間に出てきます。
我が社ではCNCという工作機械も小型のものは自社で所有していますし、大きい部品は3D CADで設計したデータを提携工場に送り、切削加工してもらったものを組み立てるなど使い分けています。
─ 職人の勘を、CADに落とし込むまでの作業をやっている方は、結構いらっしゃるのでしょうか。
佐藤:最近は多様な分野でデジタル化が進んでいて、サービスとしてはCADデータを送信すれば、最短翌日出荷のような工場も増えてきました。
だけど、まだまだ全体をハンドリング出来る人は少ないのではないでしょうか。
例えば、先ほどの曲げ加工支援システムでも角度計自体は既成のものですが、角度計をワイヤレス化するにあたって、電子基板やマイコンを構成する必要があります。この際、電子基板は電子基板用CAD、アルミのベース台や各部品を固定するための治具などは3D CADで設計しています。
さらに、マイコンのファームウェア開発、クラウド側のWebアプリケーション開発、スマホやタブレットのアプリのプログラム開発…ということも必要になるので、プログラムを書く場所が多岐に渡ります。
ですので、CADやクラウドサービスなどの環境は整ってきているのですが、なかなか全体をハンドリング出来る人は少ないのが現状です。
─ 企業でしたら、恐らくその一つ一つに部門があるのだと思いますが、それを一人でこなしてらっしゃるというのは、これまでのご経験が活きているからなのでしょうか。
佐藤:確かに、同じことをやろうと思ったら色々な会社に頼んだり、いくつもの外注先を調べて調整する必要があります。
…いわゆるIoTって、このへんが課題なんですよね。
ちょっとしたことなんですけど、お客様は現場ややりたいことによって細かく調整したいわけです。例えばセンサーを付ける位置とか。アプリに表示する内容とか。データの取得頻度とか。
わからない人からすると、それぞれをどこに依頼すれば良いか検討もつかない。でも、ぼくはハード、ソフト、クラウド、スマホやタブレット、一通りのことを自ら手を動かして経験してきているので、どこまで自分で出来て、どこを誰に外注するかというところの判断がつけやすいことは確かです。また、インターネットとITのおかげで、たいていのことは調べれば解決出来る時代になったということも大きいと思います。
システムは運用しながら改善していくことが重要なわけですが、うちは、現場の細かな要望も色々と話を聞きながら実現するように進めていけるので、ここら辺をうまくお手伝いできればいいなと思っています。
─ 最後に、御社をどのような会社に知ってもらいたいと思いますか?
また、どんなことができるかお聞かせください。
佐藤:「こんなことできるぞ」というよりは、課題をお伺いして、最新のソフト・ハード双方の技術をつかって解決していけたらと思います。
私自身、地方の活性化、自然環境や生きものとの関係性を課題に感じているので、一緒に取り組んでくれるパートナーやネットワ-クが出来たら嬉しいです。
自然に関わる人たち、現場の人たちにITの力を伝えていきたいですね。自分でもある程度手を動かしながら一緒に取り組んで行きたい!という現場の方がいたら、少しずつ繋がりを広げていきたいなと、思っています。
─ 本日は貴重なお話をありがとうございました。
会社名: | 株式会社エンウィット |
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HP: | https://www.enwit.co.jp/ |
設立: | 1996年12月6日 |
代表取締役: | 佐藤 良晴 |
事業内容: | アプリ・クラウド・システム開発 |